ここは地獄ですか?

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おねえちゃんの話

*この記事はフィクションです(ということにしといてください)




最近仕事が〜とかメンタルが〜とかぐちぐち言ってましたが、実は全悩みの頂点に立つ「おねえちゃん」について触れたことはありませんでした。割とデリケートな話題なので家族以外に一切喋った事がありませんでしたが、匿名だからいいかなと。


私にはふたり、姉がいました。


とはいえ1番上の姉は母親の胎内にいる頃に亡くなってしまったので、私は会ったことはない。妊娠何ヶ月かの時に心臓が止まってしまい、テニスボールくらいの大きさで命を失ってしまったらしい。実はこの話を聞いたのは最近で、大学進学で実家を出た後だった。知り合いが学生結婚からの妊娠をしたという話をした際、いきなり「おねえちゃん」の話をされた。驚いた。のと同時に、こんな秘密を抱えたまま何食わぬ顔で家族をしていた両親にちょっとゾッとして、しょせん他人なんだなぁとしみじみ感じたのを覚えている。


ということで、現在この世にいるのは年の近い「おねえちゃん」一人である。


おねえちゃんは去年30歳を迎え、もうすぐ31になるのだが、実は発達系の障害を抱えていることがつい最近判明した。ニュースとかで頻繁に報道されてるから知ってる人も多いと思うが、アスペルガーとか多動性とかそういうやつだ。確かに昔から「自分の話を延々とする」「人の目を異常に気にする」「ちょっとしたことでヒステリーを起こす」「酷いことを散々言った後ケロッと話しかけてくる」「物忘れが激しい」「ぜんぜん関係ない話を始める」といった傾向はあったが、変わってるね〜の範囲内だった。しかし仕事を始めるとこれらの特性が致命的で、上司に怒られ、周りに疎まれ、職場を転々とすること八年、とうとう病院で「発達系の障害の疑いがある」との診断を下された。


これがつい半年ほど前。この話を聞いた時、私はショックで一週間ほど抜け殻のように仕事をしていた。これは当事者の体験談ではなく、その妹の正直な感想なので、不快に思う人もいるかもしれない。でも正直「えっ?じゃあ私が子供を産んだら遺伝する可能性があるの?」「結婚するとき身内に発達系の障害を持つ人がいるって言ったら、嫌がられるかもしれない」と思った。

そして自分に隠されていた事実を知ってから、おねえちゃんは荒れたというか、ヒステリーが顕著になった気がする。両親はどちらも企業でフルタイム勤務しており、収入が高い。両親がおねえちゃんの家賃やら通院代やら生活費やらを援助することになり、おねえちゃんは通院しつつ簡単なアルバイトをすることになった。こんなに面倒を見てもらってるのに、おねえちゃんは両親に暴言を吐き、ヒステリーを起こす。「障害をもって産んだのはあんたたちでしょ!」おかあさんはストレスでどんどん痩せていく。一方、おとうさんはストレスでどんどん太っていく。

それなのにこの前おねえちゃんと会ったら高いレストランに連れてかれた。お代は割り勘。「ここのご飯おいしいんだよね〜」と言っていた。は?私が自分の給料で節約節約の毎日を送ってるというのに、あんたは親の金でランチ?ふざけんな。でも文句を言うとまたヒステリーを起こすから私はじっと黙っている。おねえちゃんと別れて家に帰ると、親に電話する。おねえちゃんと会ったと話すと嬉しそうにする。こんなになっても、親はおねえちゃんが可愛いのだ。たぶん私よりも。


おねえちゃんも辛いと思う。最近30歳を超えて、将来が不安で眠れないらしい。親は先にいなくなる。私も不安だ。老後、歳をとって私とおねえちゃんだけが残されたら、どうすればいい?自分で生活できないおねえちゃんの面倒を私がみるの?一生?


なんでこうなったのだろう。実家にいた頃、私とおねえちゃんはとても仲が良かった。二人で深夜アニメを見たり、v系の動画を見たり、地方公演のライブに行ったり。バンドの趣味はあんまり合わなかった。私はムックとか雅が好きだったけど、おねえちゃんはアリスとかキラキラした系が好きだった。一緒にキャーキャー言いながらライブ動画を見ていた。おねえちゃんは変わってるけど好きだった。背が低くてちょっとぽっちゃりで顔は私より可愛いし、背がでかくて痩せてて口の悪い私と正反対だった。おバカだったけど、私の成績が良いのを自慢にしてくれていた。何の問題もないと思っていた。この前、実は高校でトラブルを起こしたり、不登校気味になったり、コースを変えたり色々あったと聞いて驚いた。私は部活やら塾やらでいつも帰りが遅かったせいか、全く知らなかった。


おかあさんの胎内で命を終えた「おねえちゃん」がこの世にいたらどんな風になっていただろう。今の「おねえちゃん」がテニスボールの大きさで心臓を止めていたら、私はいま、仕事だの彼氏だの、そういう普通の悩みしか抱えていなかったのだろうか。


ああもう、何を言いたいのか完全に内容を見失ってしまったけど、とりあえず「おねえちゃん」への、何て言うんだろう?愛憎?たぶんまさに「愛憎」がブチブチと腹の中で煮えくり返ってどうしようもない。


これが最近の、ここ半年の、たぶんこの先も一生付きまとう、私の最高の悩みでした。


ちゃんちゃん。









*これはフィクションです。